2010年9月25日(土曜日)
インドの寓話集 『ヒトーパデーシャ ― 処世の教え ―』
ドイツ生まれの「
イソップ物語」 はよく知られていますが、インド生まれの「
ヒトーパデーシャ」 を知る人はあまり多くないかもしれません。でも、「イソップ」 の中には「ヒトーパデーシャ」 から題材をとったお話がいくつかあるのですよ。
さて、「
ヒトーパデーシャ」 はどんな本かというと ――
むかしむかし、インドに立派な王様がいました。王様は自分の子どもがみな愚か者であるのを見て、なんとか立派な統治者に育て上げたいと考えました。
そこで、あるとき、王様は学者たちを集めて、「この愚かな王子たちを立派な人間に変えることができるものはいないか」 と尋ねました。するとある高名な学者が進み出て、「6ヵ月の間に、王子さま方に処世の学をお教えしましょう」 と約束しました。そして、その学者はカラスやシカやネズミの出てくる寓話によって、王子たちに処世の学をやさしく説明しました。
そうして生まれた「
有益な教訓の書」 が「
ヒトーパデーシャ」 です。この物語集では、物語の間に小さな詩が挟まれています。そのひとつが、ここにご紹介する「客人のもてなし方」です。
我が家を訪ね来りなば、
敵をも正しく歓待(もてな)せよ。
樵(きこり)にすらも己(おの)が蔭、
樹木は惜しまぬものなれば。
憩いの席と草筵(くさむしろ)、
水と優しき言の葉と、
これらの四つは善き人の
家には常に欠くるなし。
(金倉円照訳、岩波文庫より)
樹木は、自分に斧を振り下ろそうかという樵(きこり)をも拒まず、だれにでも蔭を提供する...。
そんなこと、人間にはぜったいに無理だとしても、この詩が勧める四つのものは備えられます。
①ちょっと腰を下ろすスペース ②座布団一枚 ③お茶一杯 ④おだやかな言葉
そして、玄関先に張り紙を出します。
「お茶の用意ができています。どなたさまも、一休みにお立ち寄りください」
そんなことしたら、まるで「泣いた赤おに」 みたいですが、こんなことでもして、ちょっとずつ
ちょっとずつ、昔のような人と人の交流がよみがえったらいいなぁと本気で思っています。
アニー・ローリー(倍賞千恵子)