2010年8月30日(月曜日)
函館トラピスト男子修道院の物語 ― 週末に読んだ本
湯の川のトラピスチヌ女子修道院に比べたら、観光客はほとんど行きませんが、函館からそう遠くない渡島当別にトラピスト男子修道院があります。どちらも沈黙の戒律を守る厳律シトー会という修道会に属します。
この男子修道院を舞台にした 「
葡萄蔓の束」 (ぶどうづるのたば) という短編小説を読みました。作者は函館出身の久生十蘭(ひさお じゅうらん)です。1940(昭和15)年の直木賞候補にあがっていましたが、宇野浩二が選評で 「翻訳物くさいところが気になる。しかも、それが、この小説の、非常な欠点である」 といっているように、よい点が付かず、落選でした。
しかし、今、読んでみると、「翻訳くさいところ」 がかえって、純朴な主人公を引き立てるのに効果的で、やさしいよい作品になっていると思います。
主人公は、トラピストの修道院で
労働士をつとめるベルナアルさん。
彼は「沈黙の戒律」を破りつづけ、なかなか修道士になれないのです。もう一歩で修道士になれそうなところまでいっても、春が巡ってくると、「
花や、虹や、小鳥や、小川など自然の美しさに感動するあまり」 沈黙を守れなくなるのです。
ベルナアルさんは、ひとりきりになって、空へ両手を差伸ばし、切れ切れな声で大きな虹にむかって
思いつく限りの歎賞の言葉を捧げてみたりするのですが、それでは感動が収まらず、ついほかの修道士に話しかけてしまうのです。
罰として 「葡萄蔓の束」 をかき集める仕事を課せられるベルナアルさん。
でも、私は思います。このトラピスト修道院の春をよく知っている人なら、ベルナアルさんに同情せずにいられないでしょう。小高い丘の上に立つ修道院の周りの草原には野の花が咲き乱れ、僧院の裏の牧場も緑のベルベットの絨毯のように美しい。丘の上から見下ろす海の青さも穏やかに光っています。
今日から始まる一週間が平穏無事でありますように!